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「日本人に日本文化を伝えたい」元・子供歌舞伎の女性が作る伝統芸能のこれから

「日本人に日本文化を伝えたい」元・子供歌舞伎の女性が作る伝統芸能のこれから

日々、新たな娯楽や若者向けのコンテンツが生み出されては消費されている街、東京。

「週末は何をしようかな。」
「明日のデートはどこへ行こう。」

こんなことを考えながら、我々は日常的に多くの娯楽を選択し享受している。ある時は、家でひたすら漫画を読みたいかもしれない。いつものデートは水族館や映画だから、たまには奮発してミュージカルに行きたい時もある。友人とはカラオケや居酒屋にしか行かないし、今週末は一緒に歌舞伎でも見に行こう。

 

「え?歌舞伎?ないない!(笑)」

もしかしたらあなたは今、心の中でこんなツッコミをしたかもしれない。その通りだ。歌舞伎に限らず、日本の伝統芸能が今の若い人達の娯楽の選択肢に入る機会は少ない。

興味がないのだから、仕方がない。けれど、例えばあなたが綺麗な着物を着てみたいと思うのは、着物を着ていてもおかしくない文化や、それを創り出す技術が生き残っているからだ。そして、それを守っているのが伝統芸能なのだ。我々若い世代が何かのきっかけで伝統芸能に興味を持たない限り、伝統芸能や文化はますます衰退していくだろう。

ここに、一つの問題が浮かび上がる。

何故今の若い人達は、日本の伝統芸能に興味がないのか。

これからご紹介する人物は、子供の頃のあるきっかけから「この現状をどうにかしたい!」と奮闘する一人の女性である。

現在新卒一年目の阿部さん。平日は広告代理店でフルタイムで働き、毎週土日を伝統芸能や文化保存の為の活動に費やしているのだと言う。

過去には子供歌舞伎集団「信楽会たぬきっず」を通して、老人ホームや障がい者施設での慰問公演を経験している阿部さん。最近では深川の街興しイベントも主催。現在は能楽堂インターンを運営する傍ら、自らも学生と一緒に能の勉強に励んでいると言う。

そんな精力的な活動を展開する彼女は、自身の心情をこう語る。

「日本人に日本文化を伝えたいんです。」

グローバル化が進み、ますます海外に目が向けられる昨今。一方で、日本人は自分の国の魅力に気付けているのだろうか?

そんな思いから、あえて日本人に焦点を当てた阿部さん。彼女の活動に込められた思いを探ってみた。

「日本人に日本文化を伝えたい」阿部さんが広告会社に勤めるワケ

阿部さんの現在について教えてください。

平日はウェブ広告の代理店で働いています。土日は子供向けのイベント企画や、街興しのプロデュースを介して日本の伝統芸能に関わる活動をしています。伝統芸能に携わる方にお話を伺ったり、歌舞伎のお化粧や着物の着付けも教わっていますね。また、現在は能楽堂のインターンシップも運営していて、学生と一緒に能の世界を学んでいます。

それらの活動の焦点を、日本人に当てたのは何故ですか?

以前、「海外は最高。日本は駄目だ。」が口癖の友人が、海外旅行から帰ってきたら「私、日本のこと何も知らなかった。」と言ったことがあったんです。それで、私達って海外の文化は熱心に勉強するのに、日本のことは何も知らないんだなって気付いて。

ビジネスにおいても自国の文化を知ってると言うのはすごく大切で、逆に知らないビジネスマンは、基本的に信用されないんです。それなら私は、「日本人に日本文化を伝えたいな」って思ったんです。

なるほど。お仕事に広告代理店を選んだのはそれが理由なんですね。

やっぱり、ウェブ広告って何かを宣伝する上では最上の手段なので。でも歌舞伎や能などの伝統芸能って、一応宣伝もしっかりするんですけど、基本的には紙が主流なんです。

今の時代、紙の広告が人の目に触れる機会ってすごく少ないですよね。これ、伝統芸能がなかなか一般的にならない大きな理由だと思うんです。だから、

「伝統芸能を広めるためにはウェブ広告の勉強をしなくちゃ駄目だ!」

と強く感じて、この業界に飛び込んだんです。

伝統芸能との出会いから学んだ日本文化の神髄

伝統芸能に興味を持ったきっかけは何でしたか?

小学校で子供歌舞伎の役者募集チラシが配られたんです。私はそれを見て、何故か歌舞伎のお化粧をしてもらうイベントと勘違いして、ほとんど勝手に応募しちゃって(笑)。母曰く、いつもはどんな手紙もランドセルの底で潰れているのに、このチラシだけは綺麗な二つ折りで机に置かれていたみたいです。

会場に行ってみたらオーディションが始まってびっくりしました。でも、もともとバレエを習っていて舞台に立つことは好きだったので、歌舞伎もやってみようと思ったんです。日本文化全般に興味を持てたのは、ここである先生と出会えたと言うのがとても大きいですね。

その先生はどんな方でしたか?

とにかく恐い先生でした!最初の挨拶で、「俺は学校の先生じゃない。お前たちが俺を怒らせたら殴るし、蹴る。」と言われたのを覚えています(笑)。一方で、子供が大好きな先生でした。その先生に歌舞伎や日本舞踊の稽古をつけてもらって、地方のイベントで公演を行ったり、老人ホームや障がい者施設で慰問公演を経験しました。

子供歌舞伎時代の阿部さん。“化け猫”の役。

その傍らで、日本人の礼儀作法や、日本文化の根底にある想いも教わったんです。その時の経験と共感こそが、私の現在の活動の原点だと思っています。

「日本人の礼儀作法や文化の根底にある想い」と言うのを教えてください。

礼儀作法はもちろんですが、日本の伝統芸能や文化は基本的に、「感謝の気持ち」が根底に流れているんです。日本は神道の国ですよね。古来より自然界に存在する万物には、精霊や神が宿ると考えられていた。その精霊や神に生かされ、共生してきた日本人の、崇拝や感謝の意を表す儀式こそが、伝統芸能のルーツなんです。

伝統芸能って、どうしてもエンターテインメントとして見られがちですよね。私はそれが少しだけ寂しいんです。何故なら、エンターテインメントとしての伝統芸能にも、根底にはちゃんと日本人のアイデンティティが生きている。

私は伝統芸能を知ってもらうことで、日本人のルーツである感謝の気持ち礼儀作法を、もう一度日本人に伝えたいなと思っているんです。

こちらは歌舞伎の代表的な演目『蘇我対面』。向かって右側が、十郎役を演じる阿部さん。

伝統芸能の現状、そして阿部さんのこれから

礼儀作法や感謝の気持ち。これらは日本人が海外から高く評価される点でもある。日本の礼儀作法と伝統芸能が、実は根っこの部分で通じていたと言う事実には思わず膝を叩いてしまった。我々も日本人として、自分たちのルーツを知り、大切にしていかねばならない。

しかしながら、日本人に伝統芸能の魅力を知ってもらうためにはいくつもの問題がある。その現状に、阿部さんはこれからどう取り組んでいくのだろうか。

伝統芸能の現状について

冒頭に立ち返って、何故伝統芸能って若い人に人気がないのでしょうか。

一番は生活様式の変化ですね。例えば、ルールを知らないスポーツって見ていて面白くないですよね。それと同じで、前提知識に欠ける私たちの世代は伝統芸能に面白さを見出しにくいんです。

昔であれば、伝統芸能は日常生活と密接に繋がっていたので、芝居に使われるちょっとしたネタや知識が、そもそも観客にインプットされていたんです。それが、生活様式の劇的な変化によって、現在は知識人や教養に富んだ人たちの特権のようになってしまったんだと思います。

ちょっと前の「ワンピース歌舞伎」なんかはとても若者向けでしたね。

そうですね!2019年の12月には『風の谷のナウシカ」も歌舞伎の演目になるんです。最近の歌舞伎は新しい需要を生み出す為に、若者向けのコンテンツも積極的に取り入れてるんですよ。

もともとのファンからすれば、「なにあれ!?」って感じかもしれないですけど、新しいものって異質だからどうしても反感買っちゃうんですよね。でも、いつの時代も「なにあれ!?」って言われながら歌舞伎という文化が出来てきたんだし、私はアリだと思います!

“阿部流メソッド”は「若者の目線を武器に、伝統芸能を守る」

生活様式の違いというのは、伝統芸能普及を目指す上でかなり大きな障壁だと思いますが、阿部さんはどのような方法をお考えですか?

日常の中に伝統芸能に触れる機会を増やすことができれば、伝統芸能を楽しむためのストーリーやバックグラウンドを知ってもらうきっかけになると思うんです。以前子供向けに歌舞伎のお化粧を施すイベントを開催したことがあるのですが、その時は子供よりお母さんの方が大喜びしちゃって(笑)

それから街興しイベントを主催した際は、街の歴史にちなんだ歌舞伎の脚本を書きおろして、ちょっとした見世物として差し込んだりもしました。そうやって、伝統芸能に対する敷居の高さを徐々に取り払っていきたいです。

街興しイベントにて。この日は子供歌舞伎時代の役者達が集まった。(撮影:林田真季)

今後はやはり若い人に馴染みのある方法を用いたイベントを企画したいですね。その為には伝統芸能をデジタル化するのが一番だと思うんです。例えばプロジェクションマッピングで歌舞伎の舞台を映す、とか。あとは、VRを使ったイベントも考え中です。

VRですか!今急成長している分野ですし、若者の注目も集まりそうですね。

VRを通して、歌舞伎役者の目線で役になりきってもらえば、より近い目線で衣装の美しさや小道具、大道具の魅力を知ってもらえると思うんです。あとはやっぱり歌舞伎って言う舞台の迫力が伝わるかなって。

伝統芸能以外でも、刀研ぎを研ぎ師目線で体験できるVR映像なんかがあれば面白いですし、文化保存にも繋がるんじゃないかと考えています。現代の方法を駆使して、伝統やしきたりを守っていく。それって、若者の一人でもある私だからこそ、できることだと思うんです。

終わりに

過去から現在へと引き継がれてきた、伝統芸能。それを背負って活動する阿部さんの情熱的な眼差しは、しっかりと未来を見据えていた。

これからの阿部さんの活動から、ますます目が離せない。

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